研究キーワード:マングローブ, 生態系
マングローブの樹木病害、マツ類材線虫病
教員名:亀山統一 (かめやま のりかず)
所属:亜熱帯農林環境科学科 森林環境科学分野
専門分野:林学, 森林科学
主な研究内容
マングローブの樹木病害、マツ類材線虫病
樹木病害の研究を通じて、琉球列島の森林生態系を守ろうと取り組んでいます。例えば、いま沖縄島で大被害を出している「松くい虫」( リュウキュウマツ材線虫病)の流行の仕組みについて森林調査を続けて追跡したり、マングローブ植物とその枝葉に生活する菌類との関係を、さまざまな島で調べたりしています。
今とりくんでている仕事の紹介 「マングローブ林を守る」ほか
メヒルギ枝枯病
メヒルギKandelia candelは、琉球列島のマングローブ林の主役の植物のひとつです。とくに、沖縄島、奄美大島、種子島、屋久島といった琉球列島北部での役割は大きく、北限のマングローブ林をつくっています。

メヒルギ枝枯病でかれた枝
そのメヒルギに枝枯病(えだがれびょう)という病害が発生しています。しかも、八重山よりも沖縄・奄美の方が被害がひどいようです。 左は、メヒルギ枝枯病による枯れ枝の写真です。右上に伸びる枝には、病原となっているカビ(子のう菌の一種)の、子のう殻子座(しざ)・分生子殻子座という、胞子を作る器官が、だいだい色の斑点となってはっきり見えますね。雨のあとなどには、ここから胞子が押し出されてきます。黄色いアメ細工のようで、よく見るととてもきれいです。
メヒルギは、本来こんもりと丸い樹冠(葉の茂った部分)をしています。しかし、枝枯病が進むと、真ん中の部分が特に被害を受けて、木の上部と地面近くだけに枝葉が茂るようになります。上部の枝葉は、枝枯病や台風の被害を受けやすく、最終的には、成木なのに樹高の低い、テーブルのような樹形になってしまいます。
そこで、琉球列島のほぼすべてのマングローブ林を回ってみました。また、台湾(台北市淡水・八里,新竹県紅毛)や中国(広西壮族自治区山口紅樹林保護区)にも行ってみました。
すると、メヒルギ枝枯病は、メヒルギのあるところにはどこでもありました。しかし、被害のひどいところも、ほとんどないところもあります。そうすると、被害の強弱は環境のちがいに原因があるのかも知れません。いま研究を続けていますが、風が強く当たる林縁部では被害が確実に大きいのです。
このことから、土木工事やエコツアーなどで、人間がマングローブ林を切ったり分断したりすると、病気がひどくなる可能性があると分かります。
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マングローブの内生菌
マングローブは、写真のように、入江や河口に種子が流れ着いて広がっていきます。単独で生えている木も多くあります。では、どうやってそこに枝枯病の病原菌が届くのでしょうか。
マングローブ林の水路側や海側には、単独で生えている個体が多くあります。新たに進入した場所などでは、単独でしか生えていないこともあります。
また、最近、マングローブの枝葉の健康な組織の中にも、カビの仲間などの微生物が住んでいることが分かってきています。これらを内生菌と呼んでいますが、すぐには病気を起こしたりせず、役割はよく分かっていません。
これら、内生菌やメヒルギ枝枯病などの病原菌は、一体どこから胞子などが飛んできて、マングローブの樹体に感染するのでしょうか?遠く離れた別のマンブローブ林から飛んでくるのでしょうか? 陸上の森林から飛んでくるのでしょうか?
マングローブに感染するカビは、陸上の樹木に感染するカビと同じ暮らしができるでしょうか?
というわけで、いま、マングローブを陸上森林の樹木の内生菌や病原菌にどんなものがあるか調べて、比較しようとしています。マングローブ林と後背の森林とでは、病原菌や内生菌の種類がどれくらい共通なのでしょう。それによって、マングローブと陸上森林の関係が、もっとよく分かるかも知れません。

私の研究室で一番新しい仕事は、散布体の内生菌相の解明というテーマです。
内生菌といえば、これまでは、樹木の若い茎や葉を対象にして、そこにいる菌を調べてきたのです。
しかし、マングローブの主役をしめるヒルギの仲間は、花が咲いて果実ができると、樹上で種子が発芽し、左の写真のように茎のもとになる組織(胚軸)が伸びてきます。例えば、写真のメヒルギのばあい、花は年1回初夏に咲きます。11月〜1月には成熟した果実から発芽伸長した胚軸が突き出してきます。これが30センチメートルほどまで伸びて、3月ごろに落下し、(真下の泥に刺さるのではなくて)潮に流されて海面を漂流し、干潟のようなところに運ばれてうまいぐあいに動かなくなると、下の方にある根原基から速やかに根を出して定着し成長を始めます。つまり、果実ができてから長い間樹上にあるだけでなく、胚軸が露出してからも数ヶ月は樹上に留まるというわけです。この長い間に、内生菌が感染するチャンスはないでしょうか。
この散布体(本によっては胎生種子と書いてありますが、これはもう種子ではないので、私たちは単に散布体と呼んでいます)が内生菌などの乗り物になっていれば、どんなところに流れ着いても、そこに、マングローブ林ができるだけでなく、森林の構成要素である微生物も一緒に届くことになります。
それが分かると何かよいことがあるのでしょうか? 経済的にもうかる話はなさそうです。でも「科学」ってビジネスのためにしてるんじゃないですよね。
地味~な研究ですが、微生物は、うたがいなく森林生態系のなかで大事な役割を果たしています。あまり知られていない微生物のことが分かると、琉球列島の森林・マングローブの豊かさが、少しよく分かることになります。また、マングローブをはじめ沖縄の豊かな自然を、軍事基地や不適当な開発による環境破壊から守るための知識につながるかも知れません。
左は、名護市大浦湾のマングローブ(米軍海兵隊基地の建設で話題になっている辺野古に接する湾です)海側からきれいなくさび形をなしている(風波の影響による)、美しいヒルギ林です。
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琉球列島の樹木病害の探索
学生が毎日通っている琉球大学の図書館の横にナンキンハゼの並木があります。このナンキンハゼは、以前から枯れ枝がよく出るので不思議に思っていました。
ときどき注意してみていたら、梅雨どきのある日、枯れた枝には、こんなマイクロな「キノコ」(*)が…。調べてみると、菌糸の束の上に、まるく胞子(分生子)がまとまってできているものです。
左の写真は、直径2センチメートルほどの枯れ枝の上半分のみを撮影してあるので、「キノコ」の小ささが分かりますね。これが、枝を枯らす正体なのでしょうか。
(*キノコのようにみえているのは分生子柄束といい、これは、有性生殖器官ではないので、正確には子実体(キノコ)とは言いません…。しかし、まあ、あまり難しく考えずにお読み下さい。)
そこで、この胞子を水にといて寒天の上で発芽させ、顕微鏡でみながら、たった一個の胞子から発芽したばかりの菌糸をとりだして(手作業で細い針を使って釣ります)培養したものを準備しました。寒天の上に生えた白いふわふわの菌糸です。
それを、元気な若い茎に接種してみました。茎にわずかな傷を与えて、菌糸を貼り付け、乾かないようにして、経過を観察します。もちろんこれも手作業です。
学生も教員も、こんな作業をこなしながら、樹木と微生物の様々な関係をさぐっていきます。
琉球列島は、大隅諸島から与那国島まで、本州と同じだけの広がりがあります。北は温帯の下部にあってヤクタネゴヨウやスギが生えており、南の西表島などは台湾の台北よりも南にあり、みごとな亜熱帯雨林が見られます。サンゴでできた標高の低い島も、中国大陸や日本本土とつながっていたあと水没したことのない高い島もあります。その分、多様な樹木や微生物が生きていますから、調べることはたくさんあり、どれも魅力的です。
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松くい虫の研究も
松くい虫は、正確には、マツ類材線虫病といいます。沖縄産のマツ、リュウキュウマツも材線虫病にかかります。
この病気の原因はマツノザイセンチュウという小さな動物です。北アメリカ原産で、日本には貿易活動に伴い、20世紀の初めに侵入しました。沖縄には、復帰直後の1973年に公共事業に伴って不法に持ち込まれ、米軍基地内でまんえんし、現在のように定着してしまいました。(この辺の経緯は、「観光コースでない沖縄 第四版」高文研に執筆しました。)
松くい虫というのは、マツノマダラカミキリなど、弱ったり枯れたばかりのマツの木に穴をあけて幼虫がくらす甲虫類をさします。法律でも駆除の対象となっているのですが、マツノマダラカミキリは日本や東アジアに以前からいる生物で、生きたマツを弱らせたり殺したりすることはありません。たまたま持ち込まれたマツノザイセンチュウの乗り物となって、材線虫病で枯れたマツの木から、マツノザイセンチュウを、元気なマツの木へと運ぶ役割を果たしてしまっているのです。
琉球列島では、沖縄島と奄美大島が、材線虫病の被害地域です。基地がなかった宮古島は、病害が一度侵入しましたが、制圧・撲滅に成功しました。日本から広がった中国・台湾でも深刻な病害であり、効果的な対策が必要です。
私たちの研究室でも、リュウキュウマツ材線虫病の研究は取り組むべきテーマの一つです。(数年前までは中心的な課題の一つでしたが、今は一休み中。やりたい!という学生が来たらすぐ再開します。)
左の写真は、枯れたマツの木にドリルを打ち込んで、材の細片をとりだしているところです。研究室に持ち帰って材片を水中につけておくと、線虫類がいると水中に泳ぎだしてきます。枯れたマツの木が材線虫病によるものかどうかの大事な判別作業の一コマです。
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これも研究?

これは研究? そう、ただいま研究中です。 スキーが研究? いえ、スキー「で」研究です。 ・・・?
沖縄では観察できない、寒冷地の森林植物や樹木病害の観察にやってきました。積雪地の森林には、冬場はスキーをつけなければ入れません。ただし、スキーを履けば入れるというものでもありません。そういうわけで、森林観察&スキーのお稽古中です。いいですね、これは遊びではありません、遊びじゃないんだってば!
写真は水上宝台樹スキー場にて。この一帯にはヒノキアスナロがあるので、それを見るのも目的の一つでした。天然生のヒノキアスナロは極めて優良な材で、青森のヒバ、能登半島のアテという名前でよく知られていますが、この水上の奥の方にもあるのですね。旧水上町藤原のこのあたりは、今は大変静かな過疎地ですが、戦後、林業が盛んな頃は営林署の仕事で多くの人が集まっており、映画館もあったそうです。近くに湧く湯ノ小屋温泉も労働者のものでした(以上、湯ノ小屋温泉照葉荘ご主人からの聞き取りによります:この宿の建物はヒノキアスナロ材を使っているのでそれも観察しました)。さいわい、ヒノキアスナロ漏脂病の病徴はほとんど認められませんでした。

これは研究? いや、footballです。当研究室では、footballer(経験・技術不問)、音楽好きで楽器(とくにflute)を演奏する人は特に歓迎されますが、そんなことには何の関係もなく、いろいろな楽しみを持った人が集ってきます。研究は長く続くものであり、うまくいかない日々も多くあります。そういうときに、趣味を持ったり、人と深く接して楽しむことは、とても大事なことです。(写真は留学生フットボール部のメンバーと琉大杯初戦突破の記念に)
というわけで、目標は大きく、仕事はささやかに、頑張っています。
沖縄に森林・マングローブの調査でお越しになりたい方、この研究室で一緒に学んでみたい方などは、遠慮なくご連絡下さい。情報提供など、可能な限りご協力します。
研究室の詳しい様子については、こちらにどうぞ




