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家畜繁殖学研究室

研究テーマ
遺伝資源の保護/畜産・家畜/バイオテクノロジー
キーワード
沖縄在来豚アグー,凍結保存,精子,卵子,種雄牛,ウシ,ブタ,体外受精,初期胚発生,受精卵移植

研究内容

精子と卵子は秘密の玉手箱!

家畜繁殖学研究室

ウシおよびブタ卵子の初期発生にかかわる生理・生化学的要因の研究、沖縄在来豚アグーと種牛の効率的増殖に関する研究など

教員名 建本 秀樹
所属 亜熱帯農林環境科学科  動物機能学
専門分野 動物生産科学 /応用動物科学 /繁殖工学 /生殖細胞生理学

主な研究内容

<はじめに>

「新しい生命の誕生」,これは非常にエキサイティングな瞬間であり,この時ほど感動することはありません。私は,ウサギの体外受精を行っていた大学生だった頃,偶然にも卵子の中に突入(侵入)する精子の瞬間を顕微鏡で見た時の衝撃的なシーンを未だに強く覚えています。この驚くべき生命誕生の出発点が,10 μm程の1匹の精子と120 μm程の1個の卵子の合体(受精)から始まることは,よく知られています。そして,この現象は昆虫から哺乳動物に至るまで共通に認められ,生物の進化にとって重要な役割を果たしています。しかし,精子や卵子の受精に及ぶまでの経緯や受精後の胚発生に関しては,今なお解き明かすことの出来ない様々なドラマが展開されていることを皆さんは知っていますか? 例えば,排卵前の卵巣内に存在する卵母細胞の数は,ヒトでは約40万/片側卵巣,ウシで約6万,ブタで約3万です。そのほとんどが発育を開始することなく,発育を開始したものの99%以上はアポトーシスやプログラム細胞死といった現象により閉鎖して消滅してしまいます。同様に,1回の射出精液に含まれる数億~数百億匹の精子の内,幸運にも卵子と受精できるのはたった1匹です。また,受精前後の未分化の卵子は,ガン原遺伝子(プロトオンコジーン,protooncogene)により細胞内の生理学的作用が秩序正しく維持されています。ある意味,「秩序あるガン細胞から生命は誕生している」とも言えます。一方,試験管ベイビー(体外受精),凍結保存あるいはクローン技術など,哺乳動物の卵母細胞や胚を用いる人為的操作技術の発達には,最近めざましいものがあります。ところが,体外での胚作出技術を駆使して作出したウシやブタの胚の品質は,生体内で自然に発生するものと比較して著しく低下してしまいます。その結果,受胎率の低下,あるいは,異常胎仔の割合の増加など,様々な問題が取りざたされています。食料生産,種の保存,さらにはヒトの不妊治療といった様々な面から体外受精胚の効率的な生産および利用が世界的に切望されている時,これらの技術を飛躍的に発展させるためには,色々な手法を駆使して分子レベルにおける研究が不可欠です。 そこで,我々の研究室では,家畜の生殖細胞(卵子と精子)を主な研究対象として,特に,発生や分化に関与する細胞障害性の機序ならびに細胞増殖の制御機構に関する研究を基礎から応用の広範囲にわたって,生理・生化学的に進めています。

<沖縄在来豚アグーについて>

沖縄には,14世紀末期の琉球王朝時代に中国から持ち込まれた「唐豚」が元となる我が国で唯一の在来豚である「アグー」が存在します。しかし,アグー飼育頭数は,太平洋戦争時の戦災と戦後の復興に伴い著しく減少し,今では貴重個体に属するアグー個体数は僅か80頭程です(2006年6月6日の調査時点)。しかも,それら現存するアグーにおいては,これまでの閉鎖系小集団内での度重なる近親交配の影響と思われる繁殖能力の低下が顕著に認められています。 雄アグーの繁殖能力について述べると,一回当りの射出精液量(平均165 ml)と精子数(平均172億匹)が非常に少なく,精液中には一般経済豚に見られような明確な精子濃厚部画分を有しません。また,夏季(長月期間: 5月下旬~10月中旬)には,元々,一般経済豚に比較して劣っている精子性状がさらに悪化し,この時期に繁殖に使用できる個体数は激減します。同様に,雌アグーでは,従来の目視による判定法では約50%の割合で性周期の把握が出来ず,多産系のブタでありながら1回の平均出産頭数は4~5頭,しかも,流産・死産や奇形胎児の割合が非常に高い状態です。すなわち,現在のアグーを一般経済豚で一般的に行われている交配法で通年的に使用し増産することは,非常に難しい状況に陥っています。 一方,近年,肉質や風味に一般経済豚とは異なる特長を持つアグー精肉が嗜好される様になり,雄アグーと西洋豚との交雑種を「ブランド豚」として生産および出荷する試みが沖縄県内で頻繁に取り組まれ始めました。そして,このブランド豚生産は,県内の養豚産業の活性化だけでなく,観光業界を中心とした沖縄経済全体の発展にも繋がると予測され,行政もその成果には大きな期待を寄せています。 その為には,頭数が少なく繁殖能力に劣るアグーをいかにして増殖させ,さらには,その貴重な遺伝形質を後世に渡って維持・保存していくかが重要です。

<最近の研究課題>

[ウシおよびブタ卵子の初期発生にかかわる生理・生化学的要因に関する研究]
・ 卵胞卵の体外成熟(核成熟,細胞質の成熟,透明帯の成熟)
・ 体外受精(多精子侵入の抑制,精子-透明帯間の糖鎖結合)
・ 初期胚の発生(酸化ストレス,プログラム細胞死)

[沖縄在来豚アグーと種牛の効率的増殖に関する研究]
・ ブタ射出精子とブタおよびウシ体外受精卵の凍結保存技術の確立
・ アグーブランド豚の年間を通した安定した増産に適したアグー精子の凍結保存ならびに人工授精技術の確立
・ アグー受精卵およびウシ体外受精卵由来凍結融解胚の移植による産子の増殖

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